野球ファンにとって、ワールドシリーズは特別な舞台。
ただ、延長戦になると「一体いつ終わるのか?」「タイブレークは使われるの?」と疑問に思ったことはありませんか?
レギュラーシーズンとは異なり、ポストシーズンでは特有のルールが採用されています。
とくに延長戦は、「決着がつくまで続く」ことが前提であり、近年では過酷な試合が話題になったことも。
この記事では、ワールドシリーズにおける延長戦の本当のルールと、そこに隠された戦略・感動・そしてリスクまでを、深掘りしていきます。
伝統を守る姿勢と、限界を超えた戦いの実情を知れば、次に試合を見るときの見方が少し変わるはずです。
目次
ワールドシリーズの延長って、どこまで続くの?
「ねえ、ワールドシリーズって延長何回まであるの?」
野球にあまりくわしくない友人から、ふいにこんな質問をされた。
そう言われてみると、自分も最初は知らなかった。
答えは――なんと、“無制限”。
つまり、決着がつくまで、ずーっと続くのです。
たとえば、普段のレギュラーシーズンでは、延長10回から“タイブレーク制”という特別ルールが使われます。
無死で二塁にランナーがいる状態から攻撃が始まる、いわば時短モード。
でも、ワールドシリーズではこのタイブレークは使われません。
なぜなら、「本当に強いほうが勝つ」ことを大切にしているから。
伝統の舞台では、ズルや近道は許されない。
フェアでシンプルな勝負が基本なのです。
歴史に残る試合もあります。
2018年のワールドシリーズ第3戦(レッドソックス 3-2 ドジャース)では、試合がなんと18回まで突入。
時間にして7時間20分という超ロングゲームに。
このとき、日本時間では深夜2時をすぎてもSNSが大盛りあがり。
「まだ終わらない!」「神回すぎる!」という声が飛びかっていました。
こういう“何が起こるかわからないドラマ”こそ、ワールドシリーズのだいご味。
だからこそ、タイブレークを使わず、最後までガチンコでやる意味があるのです。
延長が長すぎて投手が足りない!そのときどうする?
もうひとつ気になるのが「そんなに長くやって、投手はもつの?」という疑問。
結論からいうと――もちません。
いや、正確にはギリギリまでは耐えるんです。
でも、延長が15回、16回……と続くと、さすがに誰も残ってない。
じゃあどうするのか?
答えはズバリ、「野手が投げる」んです。
ピッチャーじゃない野球選手がマウンドに立つなんて、ちょっと信じがたいかもしれません。
でも、これはMLBではめずらしくない“非常手段”。
たとえば、先発予定の投手が緊急で登板したり、ブルペンをフル稼働しても、まだ決着がつかない場合、ついに野手が登板するというわけ。
ここで例としてよく名前が出るのが、大谷翔平選手のような二刀流プレイヤー。
彼はふだん打者として出場していても、ルール上は投手としても投げられるんです。
とはいえ、実際にそうなるのは相当な緊急事態。
大谷選手のようなエースをそんな無理させて登板させたら、次の試合どころじゃないですからね。
なので、現実的には控えの野手が投げることが多くなります。
たとえば、2022年のア・リーグディビジョンシリーズ(ALDS)第3戦では、ヤンキースのマット・カーペンターが延長17回に登板するというレアケースもありました。
ファンの間では「いよいよか……」という空気が流れたそうです。
さらに記憶に新しいのが、2024年のワールドシリーズ(ドジャース vs ヤンキース)。
第1戦は延長11回までもつれ込み、ドジャースのウリアス投手が登板回避できるかどうかの瀬戸際に。
SNSでは「誰が投げるの?」「そろそろ外野手の出番では!?」と、野手登板のカウントダウンが始まるほど騒然としました。
こうしたギリギリの攻防もまた、延長戦のスリルの一部。
戦術を超えて“総力戦”に突入する瞬間に、スタジアムの空気は最高潮に達します。
ワールドシリーズに「引き分け」はあるの?
「延長戦って、どこまで続くの? 引き分けとかないの?」
そう思った人、意外と多いかもしれません。
答えはズバリ――「現代では、引き分けは一切ありません」。
ワールドシリーズでは、どちらかが勝つまで“決着がつくまで終わらない”のがルールです。
たとえ試合時間が8時間を超えても、朝になりそうでも、終わらない限り終わりません。
でも、ちょっと前までは違いました。
実は、過去のワールドシリーズでは、引き分けが3回も記録されているんです。
年号でいうと、1907年・1912年・1922年。
たとえば――
1922年のワールドシリーズ第2戦(ジャイアンツ vs ヤンキース)では、10回表で日が暮れて試合がストップ。
「暗くてプレーできない」という理由で、そのまま引き分け扱いになったのです。
当時はナイター設備なんてなくて、すべて昼間の試合。
でも延長戦に入ると、どんどん暗くなって見えない!
だから、審判が「もう今日は終わり!」と判断していたわけです。
そんな“時代”も、いまや過去の話。
いまのMLB球場は、すべてナイター照明つき。
しかも、雨や雷で中断しても、ルールにより「サスペンデッドゲーム」として後日再開、もしくは中断した場面から続行する決まりになっています。
つまり、現代のワールドシリーズでは
- タイブレークなし
- 時間無制限
- 途中打ち切りもナシ
という、「絶対に終わらせる」三拍子そろったガチ仕様なのです。
だから、「この試合、何回やるの…?」と思っても、どこかで勝者が出るまでとことん続く!
それがワールドシリーズの鉄のルールなのです。
延長戦が生む、もうひとつのドラマ
2024年のワールドシリーズ第1戦(ドジャース vs ヤンキース)では、延長10回にフリーマン選手がサヨナラのグランドスラム!
その瞬間、X(旧Twitter)では「これぞワールドシリーズ!」がトレンド入り。
まさに、延長戦が生む奇跡のドラマでした。
こうした場面、実はワールドシリーズでは何度も生まれています。
「疲れきった選手が、最後の力をふりしぼって打ったサヨナラホームラン」
「代打で出てきた選手が、地味に1点をもぎとってヒーローになる」
これが、延長戦の魔法です。
とくに注目されるのが、「ブルペンのヒーローたち」。
ふだんはあまり目立たない中継ぎ投手が、3回も4回も無失点で投げきり、勝利の流れを作っていく。
そんな姿に、スタンドから拍手がわき起こる瞬間も、延長戦ならでは。
そして、なにより衝撃なのが「野手がマウンドに立つ」シーン。
これは、投手をすべて使い果たしたチームの“最後のカード”。
たとえば、2020年のワールドシリーズ第4戦では、レイズのマイク・ブロソーソ選手が登板し、世界中のファンを驚かせました。
ふだんはホームランを打つ側の選手が、マウンドでストライクを投げる姿は、まさにエンタメの極み。
もちろん、これは戦略というより「もうこれしかない!」という緊急事態。
だけど、だからこそ、その1球にチームの誇りや想いが詰まるんですよね。
延長戦は、単なる“時間が長い試合”じゃありません。
心を打つ「物語の宝庫」なんです。
延長戦はデータと戦略の“答え合わせ”
ワールドシリーズの延長戦といえば、ガッツと根性の勝負――
と思いがちですが、じつは裏でバチバチに頭脳戦がくり広げられているのをご存じでしょうか?
たとえば、
- 誰をどのタイミングでマウンドに送ったか
- 野手の交代はどう組み立てたか
- ポジション変更や守備シフトはどうだったか
こういった細かな判断は、あとから全部データで“答え合わせ”される時代なんです。
いまや、野球は「感覚」だけでやるスポーツじゃありません。
延長戦の1球1球が、チームのデータ戦略の試金石になっているのです。
シリーズ全体の流れを左右する
延長戦は1試合だけの話では終わりません。
それがワールドシリーズという短期決戦の怖さです。
たとえば、延長で先発をつぎ込んでしまったら、次の日の先発ローテが狂ってしまう。
登板過多は、投手の疲労蓄積や故障リスクを高め、チーム全体にじわじわ響いてきます。
だからこそ、監督たちは常に「この試合にすべてをかけるべきか、それとも明日に回すべきか」をギリギリまで迷い続けるのです。
延長戦が“来年のチーム”をつくる?
延長戦で見えた弱点は、翌年の補強戦略に直結します。
たとえば、2023年のワールドシリーズではレンジャーズがブルペンの酷使で苦しみ、
その反省をもとに2024年オフにはセットアッパーのホセ・レイセスを電撃補強。
「延長に耐えられる中継ぎが足りなかった」――それが、球団の次の一手を決める材料になったわけです。
つまり、延長戦はただの試合ではなく、チームの「伸びしろ」と「課題」があぶり出される舞台でもあるんですね。
データ野球の最前線にも“延長戦”あり
ドジャースやアストロズのような先進球団では、試合中からすでに高度な分析が進んでいます。
たとえば、延長10回以降の投手起用や守備シフトをAIがリアルタイムで解析。
そのデータをタブレットで監督に提示し、次の一手をサポートするのが日常風景になってきました。
さらに、2025年現在、MLBでは「延長戦での投手残弾数(使用可能投手リスト)」をリアルタイム公開する新ルールをテスト中。
X(旧Twitter)では「これでファンにも作戦が読めて面白い!」とポジティブな声が多数。
透明性のある野球=より知的な観戦体験という方向へと、MLBは進化しているのです。
野球の“最終試験場”、それが延長戦
勝つか、負けるか。
粘るか、諦めるか。
そして、正しい判断ができるか。
延長戦は、選手の根性も、監督の戦略も、フロントの編成も全部が試される場所。
それが、ワールドシリーズ延長戦――*“野球の最終試験場”*なのです。




