女子中高生・児童に忍び寄るグルーミング手口…犯罪予備軍の見分け方とは?
2026年2月、立て続けに衝撃的な判決が出ました。
北海道の元高校講師・栗田和明(漫画家名:山本章一)による教え子への性加害に1100万円の賠償命令。
そして北九州の空手道場経営者・永末哲也による児童8人への加害に懲役24年。
どちらの事件にも共通するキーワードがあります。
それが「グルーミング」です。
聞き慣れない言葉かもしれませんが、これは子供に対する性犯罪の中でも、もっとも巧妙で、もっとも発見しにくい手口のことです。
グルーミングとは、いきなり暴力を振るうのではなく、まず「優しい大人」として信頼を獲得し、時間をかけて心理的に支配した上で性的な搾取に及ぶプロセスを指します。
言い換えれば「じわじわと心を乗っ取る」犯罪。
しかも被害者は「自分が悪い」「これは特別な関係」と思い込まされてしまうため、発覚が遅れやすいという恐ろしい特徴を持っています。
さらに今、警察庁の最新統計で明らかになったのが、SNSを通じた小学生の性被害が過去最多を更新したという事実。
オンラインゲームやアバターSNSなど、親の目が届きにくい場所で、子供たちが巧みに狙われています。
この記事では、2つの重大事件をケーススタディとして取り上げながら、グルーミングの具体的な手口、SNSで子供が狙われるパターン、そして私たち大人がどう守っていけるかを考えていきます。
目次
ケース1|栗田和明が駆使したグルーミングの恐怖とは?
まず取り上げるのは、2026年2月20日に札幌地裁が判決を出した栗田和明事件です。
この事件は単なる「わいせつ事件」ではなく、裁判所が明確に「グルーミング」を認定した点で、日本の判例としても極めて重要な意味を持っています。
加害者がどのようにして少女の心に入り込み、支配していったのか。
そのプロセスを追っていくと、グルーミングの恐ろしさが生々しく浮かび上がってきます。
栗田和明(漫画家名:山本章一、別名義:一路一)は、北海道芸術高校の通信制キャンパスでデッサン講師を務めていました。
2016年4月に入学した当時15歳の女子生徒に目をつけ、そこから約3年間にわたる性的加害を行っています。
その手口は、犯罪心理学で「グルーミングの5段階モデル」と呼ばれるプロセスをほぼ忠実になぞったものでした。
第1段階は「ターゲットの選定」。
栗田は、家庭環境に問題を抱え、自己肯定感が低く、学校に居場所を求めていた少女を選んでいます。
父親との関係に悩みを持つ子供というのは、「頼れる大人」を心のどこかで探しているもの。
そこを狙い撃ちにしたわけです。
第2段階は「接近と孤立化」。
教師という立場を使い、「漫画の裏話を教えてあげる」とLINEを交換。
授業外でのやり取りを増やし、他の先生や友人とは違う「特別な関係」を少しずつ作り上げていきました。
第3段階が「信頼の構築」。
家庭の悩みを聞いてあげ、「父親代わり」のように振る舞う。
褒め言葉や特別扱いで「君のことを本当に理解しているのは自分だけだよ」という空気を作り上げていった。
少女にとって栗田は「救ってくれる唯一の大人」に見えていたのでしょう。
こうなると、相手を疑う気持ちはほとんど芽生えなくなります。
第4段階は「性的な脱感作」。
いきなり極端なことをするのではなく、車の中での軽い接触から始めて、ホテルでの性行為へと段階的にエスカレート。
さらに「おしおき」と称した衛生面で深刻な問題のある行為、身体に「奴隷」「ペット」と書いて撮影するなど、内容は加速度的に悪化していきました。
一段ずつ境界線を壊していくこの手法は、被害者に「ここまで来たらもう戻れない」と思わせる心理的な檻のようなもの。
第5段階は「維持と口封じ」。
撮影した画像が、直接言葉で脅さなくても「存在するだけで沈黙を強いる」材料になっていた。
卒業後も画像の送信を要求し続け、関係を断ち切れない状況を維持していたとされています。
ここで特に恐ろしいのは、被害者が「自分にも責任がある」と思い込んでしまうメカニズムです。
心理学では「認知的不協和」と呼ばれる現象で、「信頼していた先生が実は加害者だった」という矛盾を脳が処理しきれず、「自分が誘ったんだ」「先生は悪くない」と合理化してしまう。
さらに虐待と優しさが交互に繰り返されることで「トラウマボンド」という強い依存関係が形成され、恐怖の直後に特別扱いされると脳の報酬系が反応して「この人がいないとダメだ」と刷り込まれてしまうのです。
被害女性は解離性同一性障害(DID)を発症し、「自分の心から自分を追い出す」解離症状が慢性化。
大学を中退せざるを得ない状態にまで追い込まれました。
これがグルーミングの行き着く先です。
ケース2|永末哲也の空手道場事件
2つ目のケースは、栗田事件からわずか6日後に判決が出た永末哲也事件。
被害者が5歳から12歳の幼い子供たち8人で、懲役24年という重い判決が出たにもかかわらず、ネット上では「まだ軽い」と怒りの声が噴出しています。
空手道場という「身近な習い事」の場で起きたこの事件は、グルーミングの恐怖が本当にすぐそばにあることを突きつけてきます。
2026年2月26日、福岡地裁小倉支部で元空手道場経営者の永末哲也(62歳)に懲役24年の判決が言い渡されました。
求刑は有期刑の上限である懲役30年。
それでも6年短縮されたことに、SNSや掲示板では「格別に悪質なのに有期刑の上限にすら届かないの?」「被害児童の生涯の傷を考えれば無期刑でもおかしくない」と批判が殺到しています。
永末は2018年から2024年頃まで約6〜7年間、北九州市で経営していた空手塾の教え子8人(いずれも13歳未満)に対し、性交等やわいせつ行為を計49回繰り返しました。
さらにその様子を画像・動画で500件以上撮影。
裁判長は「ほぼ無抵抗の状態で陵辱的な行為を繰り返し、人格・尊厳を顧みず欲求を満たすための性的コレクション扱い」「手口は狡猾で卑劣」「性犯罪事案の中でも格別に悪質」と厳しく断じています。
被害児童の中には「赤ちゃんができたのではないか」と恐怖し、保護者の前で泣き崩れた子もいたと報じられています。
5歳や6歳の子供がそんな恐怖を味わったという事実は、もう言葉にすることすら苦しい。
この事件でもグルーミングの構造は明確です。
「師範」という絶対的な権力を持つ立場から、「上達したい」という子供の純粋な気持ちを利用して信頼を構築。
練習中に2人きりの状況を繰り返し作り、身体接触を少しずつエスカレートさせていった。
子供たちは「先生に逆らったら嫌われる」「空手が上手くなれなくなる」と信じ込み、抵抗できない心理状態に追い込まれていたのです。
栗田事件と永末事件。
学校の先生と空手の師範。
職種は違えど、「子供が信頼する大人」というポジションを悪用し、時間をかけて心理的に支配するという構造はまったく同じ。
習い事の先生、塾の講師、スポーツのコーチ。
「うちの子に限って」と思いたい気持ちは痛いほど分かりますが、グルーミングの怖さは、まさにそう思わせるところにあるのです。
善人のフリした悪い先生の見分け方
ここまで読んで「じゃあ、どうやって見抜けばいいの?」と感じた方は多いと思います。
正直に言えば、グルーミングの加害者は「見るからに怪しい人」ではないから厄介なのです。
むしろ周囲からの評判が良い、子供に人気がある、保護者受けも抜群というケースが大半。
栗田和明も「面白い先生」として慕われていましたし、永末哲也も地域で信頼される師範でした。
それでも、注意深く見ていけば「あれ?」と引っかかるポイントはいくつか存在します。
まず警戒すべきは、特定の子供だけを「特別扱い」する大人です。
「この子は才能があるから個別に見てあげたい」「特別レッスンをしてあげる」といった言葉は、一見すると熱心な指導者に聞こえます。
でも、グルーミングの第2段階である「孤立化」は、まさにこの「特別扱い」から始まるのです。
他の生徒がいない場所で2人きりになる機会を意図的に増やしていないか、ここは冷静にチェックしたいところです。
次に気をつけたいのが、子供と「秘密」を共有したがる大人。
「これは2人だけの話ね」「お母さんには言わなくていいよ」という言葉が出てきたら、かなりの警戒信号です。
健全な指導者であれば、保護者との情報共有を避ける理由がありません。
子供が「先生との秘密がある」と言ったとき、それを微笑ましく受け止めるのではなく、具体的に何の秘密なのかを穏やかに聞いてみることが大切です。
連絡手段が個人的すぎるのも要注意のサインです。
学校や道場の公式連絡ではなく、個人LINEやDMで子供と直接やり取りしている先生がいたら、ちょっと立ち止まって考えてみてください。
栗田事件でも、LINE交換がグルーミングの入り口になっていました。
指導に必要な連絡なら、保護者を含めたグループで十分なはず。
わざわざ子供と1対1の連絡ルートを作りたがる時点で、何かしらの意図がある可能性を疑っていいと思います。
さらに、身体接触の頻度や質にも目を向けておきたいところです。
スポーツ指導で体に触れること自体は珍しくありませんが、他の子供がいないところでだけ触れる、必要以上に長く触れる、触れる場所が指導に関係ないといったパターンが見られたら、それは「指導」ではなく「脱感作」のステップかもしれません。
永末事件では、練習中の身体接触が段階的にエスカレートしていった経緯が認定されています。
そして意外と見落としがちなのが、「保護者の悪口を子供に吹き込む」パターンです。
「お母さんは厳しすぎるよね」「親は分かってくれないよね」「俺だけが君の味方」。
こうした言葉は、子供と保護者の間にくさびを打ち込み、相談ルートを断つための常套手段です。
子供が急に「先生は分かってくれるのに、ママは分かってくれない」と言い始めたら、その先生との関係を少し注意深く見守ったほうがいいかもしれません。
もう一つ付け加えるなら、子供がその先生について話すときの様子にも注目してみてください。
やたらとその先生の名前を出す、あるいは逆に話題を避ける。
極端に「大好き」と言う、あるいは極端に「行きたくない」と言う。
どちらの極端も、通常の師弟関係とは少し違う「心理的な巻き込まれ」が起きているサインの可能性があります。
もちろん、これらのサインがあったからといって即座に「犯罪者だ」と決めつけるのは危険です。
本当に熱心な先生が誤解を受けることだってあります。
大切なのは「疑う」ことではなく「観察する」こと。
違和感を感じたら、まず他の保護者と情報を共有してみる。
子供に「あの先生とどんな話をしているの?」と、責めるのではなく興味を持つ形で聞いてみる。
それだけで、グルーミングの芽を早い段階で摘み取れる可能性は格段に上がります。
グルーミング加害者が最も恐れるのは、「見ている大人」の存在です。
完璧に見抜く方法は残念ながらありません。
でも「何かおかしいかも」と感じるアンテナを持っておくこと、それ自体が子供にとって最大の防御壁になるのだと思います。
小学生のSNS被害が急増した理由と巧妙な罠
対面型のグルーミングだけでなく、今はオンライン経由の被害も急速に広がっています。
2026年2月26日に発表された警察庁の最新統計によると、SNSがきっかけで性犯罪の被害に遭った18歳未満は1566人(前年比5.4%増)。
中でも小学生が167人と過去10年で最多を記録し、2016年の43人から約4倍に膨れ上がっています。
ここではその背景と、加害者が子供に近づく際に使う「黄金のフレーズ」を整理していきます。
背景にあるのは、スマホ保有開始年齢の低下。
今は10歳前後でスマホを持ち始める子供が珍しくなく、Instagram、TikTok、LINEがきっかけの被害が全体の約半数を占めています。
さらにZEPETO(14件)、Parallel(12件)、オンラインゲーム経由(22件)と、親がよく知らないアプリでの被害も目立ちます。
加害者が使う手口には、驚くほど共通したパターンがあります。
ここでは5つのステップに分けて見ていきます。
①オンラインゲームでの「アイテム配布」
「一緒にプレイしよう」「レアアイテムあげるよ」「レベル上げ手伝うよ」。
オンラインゲームの中では、こうした声かけがごく自然に行われています。
子供にとっては「優しいお兄さん」にしか見えないわけです。
でも実際には、45分以内に性的な会話へ移行するケースも報告されている。
ゲーム内での「良い人」が、画面の外では全く別の顔を持っている可能性があるということです。
②「誰にも言えない秘密」の共有
「これは2人だけの秘密だよ」「親にバレたら怒られるかもね」。
こうした言葉で、子供に「大人に言えない特別な絆」を感じさせます。
本来、健全な大人と子供の関係に「親に言えない」要素は入り込みません。
「秘密はサプライズとは違うんだよ」と教えておくことが大事かもしれません。
③親や先生の不満を聞き出す共感
「親厳しいよね」「学校つまらない?」「俺だけが君の味方だよ」。
家庭や学校に不満を抱えている子供の心に入り込み、「理解者」のポジションを確立するパターン。
栗田事件でも見られた「父親代わり」の構図が、オンラインでもそのまま再現されているわけです。
④自撮り画像から始まる段階的露出
「かわいいね、もっと見せて」「服着たままの写真からでいいよ」。
軽い自撮りの要求から始めて、少しずつ内容をエスカレートさせていく。
対面のグルーミングと同じ「性的脱感作」が、画面越しに行われています。
一度送ってしまった画像は取り消せないため、それ自体が口封じの材料になってしまう怖さもあります。
⑤対面へと誘導する「ご褒美」の提示
「会ったらもっとすごいアイテムあげる」「一緒にゲームの大会出よう」。
オンラインだけでは済まなくなり、実際に会おうという段階。
ZEPETOのようなアバターSNSでは、仮想空間で築いた親密さが現実世界への移行をスムーズにしてしまう傾向があるそうです。
対面になった瞬間、子供が逃げ出せる可能性は大幅に下がります。
こうしたステップは、子供が「友達」「味方」だと錯覚したまま進行するのが最大の特徴。
被害罪種別では、不同意わいせつ55人、児童ポルノ45人、不同意性交等24人。
報告率は推定10%未満とされており、実際の被害はこの何倍にも上る可能性があります。
子供を標的にする怪物を野放しにしないために
ここまで3つのセクションで、グルーミングの手口と被害の実態を見てきました。
では、私たち大人は何ができるのか。
「先生を疑わなきゃいけない」なんて悲しすぎる話ですが、現実に起きていることから目を背けるわけにはいきません。
制度面と日常の両方から、子供を守るためのアップデートを考えてみます。
まず制度面で最も注目されているのが、「日本版DBS」と呼ばれる仕組みです。
正式名称は「こども性暴力防止法に基づく性犯罪歴確認制度」で、2024年6月に成立し、2026年12月25日の施行が予定されています。
これは事業者がこども家庭庁に照会して、従業員に性犯罪歴がないかを確認する制度。
学校や保育所など280万人超の従事者がいる施設は義務対象で、学習塾やスポーツクラブは認定制(任意)で参加できる枠組みになっています。
ただし、現段階では課題も多い。
無認可の塾講師や個人経営の教室、家庭教師やベビーシッターはまだ守備範囲の外にあります。
国会の附帯決議では「医療機関やベビーシッターへの拡大検討」が政府に求められていますが、具体的なスケジュールは見えていません。
「不十分だけど、まずはスタートさせて拡充していくしかない」というのが、現時点での多くの声でしょう。
日常レベルでできることも整理しておきたいと思います。
スマホの管理については、ペアレンタルコントロール機能を活用して利用時間を制限したり、メッセージの状況を把握しておくことが一つの手段です。
ただし、子供のプライバシーとのバランスは常に頭に置いておく必要があります。
監視が厳しすぎると、子供がかえって隠れて行動するようになるケースもあるので、「一緒にルールを決める」というスタンスが大事なのかもしれません。
子供への伝え方としては、「秘密はサプライズとは違うんだよ」「イヤなことはイヤと言っていい」「困ったら110番でも親でも先生でも、誰でもいいから話してね」といったメッセージを繰り返し伝えておくこと。
特に「大人が『秘密にしてね』と言ってきたら、それは安全じゃないサインだよ」という伝え方は、小さな子供にも理解しやすいフレーズだと思います。
見逃してはいけないサインにも注意を向けておくといいかもしれません。
急にスマホを隠すようになった、自己肯定感が目に見えて下がった、年齢に不相応な性的な知識を持っている。
こうした変化は「反抗期かな」「思春期だから」と見過ごされがちですが、背景にグルーミング被害が潜んでいる可能性もゼロではありません。
また、女子中高生だけではなく、小学生に通う女子児童を狙った犯罪も急増中です。
栗田和明の事件も、永末哲也の事件も、被害が長期にわたってしまったのは「まさかあの先生が」「まさかうちの道場で」という信頼が壁になっていたからです。
疑うのは辛いことですが、「知ること」「気づくこと」が、子供を守る確実な第一歩。
二度と同じ悲劇を繰り返さないために、私たちの防犯意識もアップデートし続ける必要があるのだと思います。




