あなたの本棚に『常人仮面』はあるでしょうか。
もし「ある」というのなら、その単行本が今ちょっとした騒ぎの中心にあることを知っておいたほうがいいかもしれません。
2026年2月25日の夜から26日の朝にかけて、『常人仮面』の電子書籍がほぼ全プラットフォームから姿を消しました。
Amazon Kindle、小学館eコミックストア、BookLive、そしてBookWalkerも順次停止。
出版元の小学館からは何のアナウンスもなし。
まるで最初からなかったかのように、静かに消えたのです。
当然ながら、ネット上は大騒ぎになりました。
なぜ急に消えたのか、誰の判断なのか、そもそも原作者の「一路一」って何者なのか。
そこに浮上したのが、ある裁判との関連です。
2月20日に札幌地裁で判決が出た、元高校美術講師・山本章一氏の性加害事件。
この山本氏こそが一路一の正体ではないかという疑惑が、配信停止をきっかけに一気に噴き出しました。
この記事では、同一人物説の根拠を改めて整理しつつ、多くの方が気になっているであろう「単行本はどうなるのか」「絶版になってプレミア化するのか」という点にも踏み込んでいきたいと思います。
目次
まず前提として、二つの作品と事件の関係を簡単に振り返っておきましょう。
すでにご存じの方は読み飛ばしてもらって構いません。
『堕天作戦』は、2015年から2022年10月までマンガワン・裏サンデーで連載されたSFファンタジー漫画。
作者は山本章一氏(本名:栗田和明、50代、北海道在住)で、WEB漫画総選挙3位を獲得するほどの人気作でした。
不死身の主人公と「支配」をテーマにした重厚な世界観が高く評価されていた作品です。
一方の『常人仮面』は、2022年末から2025年までマンガワンで連載されたサバイバルホラー。
原作:一路一、作画:鶴吉繪理(つるよし えり)のタッグで全12巻。
地震で異世界に飛ばされた高校生たちが「殺した相手の姿に変身する」というルールの中でサバイバルを繰り広げる物語でした。
最終12巻は2026年2月19日に発売されたばかりです。
そして2月20日の札幌地裁判決。
山本章一氏が元教え子の女性(当時15歳)に3年間にわたる性加害を行ったとして、1100万円の損害賠償を命じられました。
裁判所が認定した行為は、グルーミングから始まり、排泄物の強要、身体への「奴隷」「ペット」といった落書きと撮影強要など、およそ「交際」とは呼べないものばかり。
被害女性は解離性同一障害(DID)とPTSDを発症し、大学中退を余儀なくされています。
なお山本氏は2020年に児童ポルノの作成・所持で罰金30万円の有罪判決も受けていたことが、被害者側弁護士の会見で明らかにされています。
この判決から5日後、常人仮面の電子書籍が一斉に消えた。
この流れを見て、「一路一=山本章一」を疑わない人のほうが少ないのが現状です。
公式の確認は2月27日時点でも一切出ていません。
にもかかわらず、ネット上では「ほぼ確定」というトーンで語られている。
その理由を端的にまとめると、「状況証拠が多すぎて、否定する材料がまったくない」ということに尽きます。
最大の根拠は、両作品の担当編集者が完全に一致していること。
成田卓哉氏(小学館マンガワン&裏サンデー編集部)が、堕天作戦も常人仮面も担当していました。
成田氏のXプロフィールや担当作品リストから確認できる、動かしがたい事実です。
しかも成田氏は2025年11月に山本氏とランチ写真を投稿するほどの親密ぶり。
裁判が進行中の時期にこれだけ近い距離にいたことは、もはや「事件を知らなかった」では通りにくい話でしょう。
加えて、山本氏本人が2022年の堕天作戦終了時に「別名義で原作やってる」「堕天作戦は甦ります」と発言していた記録がXアーカイブやTogetterに残っています。
堕天作戦が終わった直後に常人仮面がスタートしたタイミングの一致も含め、すべてのピースが一つの絵を指し示しているわけです。
ここにサイレント停止が加わったことで、ネットの空気は「推測」から「確信」へ完全に切り替わりました。
「白状したようなもの」「小学館が答え合わせしてくれた」という声が大勢を占めています。
この問題で見落としてはいけないのが、作画を担当した鶴吉繪理氏の存在です。
巻き添えを食らった形の鶴吉氏が、果たして原作者の裁判沙汰を知っていたのか。
ここは丁寧に考えてみる必要があるでしょう。
鶴吉氏は2月26日の朝7時23分頃、Xにこう投稿しました。
「とても、ショックだ………酷い、悲しい…」
この短い言葉に、リポスト600超、いいね2300超、閲覧92万超という反応が集まっています。
具体的な作品名や人物名には一切触れず、ただ感情だけを吐き出したような文面でした。
これを見たネットの反応は、ほぼ全員一致で「知らなかったんだろう」というもの。
考えてみれば当然かもしれません。
性加害の事実を知っていて3年近く一緒に仕事を続ける理由が、作画者側にはないからです。
鶴吉氏はヤングジャンプで『ブルーフォビア』を連載していた実績のある作家。
わざわざリスクを承知で組む必要はどこにもありません。
むしろ怖いのは、小学館や成田編集者が原作者の素性を伏せたまま、女性作家とタッグを組ませていた可能性のほうです。
2021年5月のLINEグループで成田氏が「150万円即払い+守秘義務+連載再開」を提案していたとするリーク判決文の情報が事実なら、編集部は事件を把握した上で「隠して継続」を選んだことになります。
その隠蔽の延長線上に、何も知らない作画者への起用があったとすれば、これは相当に根深い話でしょう。
Xでは「鶴吉先生に賠償請求の権利はあるのでは」「作画者救済を」という声が2月26日夜から急速に広がっています。
最終巻が発売から1週間で電子版購入不可になるという異常事態は、作画者にとって文字通り「作品の死」を突きつけられたに等しい。
この点だけ見ても、小学館の対応は厳しく問われるべきでしょう。
さて、多くの方が気になっているであろう「絶版になるのか」という問題です。
2月27日0時時点の状況を正確に整理しておきましょう。
まず電子版については、事実上の絶版と言って差し支えない状態です。
Amazon Kindle、小学館eコミックストア、BookLive、BookWalkerなど主要プラットフォームで検索結果は0件、新規購入は不可。
マンガワンアプリ内では一部ユーザーがまだ閲覧できるようですが、新規購入や再ダウンロードはできないとの報告が出ています。
一方、紙の単行本はまだ絶版にはなっていません。
Amazon、楽天ブックス、書店オンデマンドなどで全12巻が購入可能な状態。
最終12巻もまだ在庫がある模様です。
ただし、重版がかかったという情報は現時点で確認されていません。
つまり今の状況は「電子版は停止、紙は在庫が残っている限り買える」という中途半端な状態。
この先どうなるかについて、いくつかのシナリオが考えられます。
ネット上でもすでに話題になっていますが、「常人仮面の紙版がプレミア化するのでは」という声が出始めています。
絶版漫画が中古市場で高騰するのはよくある話で、特に不祥事絡みで出版停止になった作品は「入手困難」というだけで値段が跳ね上がるケースがあります。
ここでは今後の展開として3つのシナリオを考えてみましょう。
これが最も現実的なパターンと見られています。
小学館が自社の関与作品だけリスク回避で電子版を引っ込め、紙版は在庫がなくなるまで放置。
重版はかけず、市場から自然に消えていくのを待つという、いわば「サイレント絶版」です。
コミロックやはてな匿名ダイアリーでもこの見方が主流となっています。
山本氏が個人出版している堕天作戦のKDP版(Kindleダイレクト・パブリッシング、著者がAmazonに直接出品できるセルフ出版サービス)が2月27日時点で購入可能なままなのも、この推測を裏づける材料でしょう。
小学館関与の作品だけ切って、個人出版は放置。
「自分たちのリスクだけ回避した」と言われても仕方のない構図です。
このパターンだと、紙版は時間とともに入手困難になり、中古市場でじわじわ値上がりしていく可能性が高いでしょう。
特に初版や帯付きの状態の良いものは、コレクター需要で価格が上がるかもしれません。
同一人物説がこのまま定着し、被害者側から「出版社の隠蔽責任」を問う追加提訴が起きた場合、小学館が紙版の自主回収・刷り止めに踏み切る可能性もゼロではありません。
アクタージュが作者の逮捕後に出荷停止・増刷中止となった前例を考えると、あり得ないシナリオではないでしょう。
ただし、現時点で紙版回収の動きはまったく確認されていません。
小学館が公式声明すら出していない段階で回収まで踏み切るのは、逆に「同一人物と認めた」ことになるリスクもあるため、判断が難しいところです。
もし完全絶版になった場合は、紙版の中古価格は確実に高騰するでしょう。
ただし、ここで一つ冷静に考えておきたいことがあります。
確かに「不祥事で絶版=プレミア化」というパターンは過去にもありました。
しかし、この作品に限っては事情がかなり特殊です。
まず、売上の一部が原作者の収入になる可能性があるという点。
新品の紙版を買えば、当然ながら印税が発生します。
その印税が山本章一氏(あるいは一路一名義の口座)に流れるのだとすれば、購入すること自体が加害者の利益に繋がってしまう。
この点を気にするファンは非常に多く、Xでは「全巻処分した」「これ以上お金を落としたくない」という声が相次いでいます。
また、中古市場で仮に値が上がったとしても、それは「性加害者の作品だから入手困難になった」という文脈でのプレミア。
コレクションとして所有することへの心理的な抵抗を感じる人も少なくないでしょう。
「持ってるだけで気分が悪い」という声がすでに出ているのが現実です。
もちろん、紙の本をどうするかは最終的に持ち主一人ひとりの判断に委ねられます。
ただ、投機目的で買い集めるような話とは、ちょっと性質が違うのではないかと個人的には思います。
もう一つ、この事件で多くの人が引っかかっているのが、担当編集者・成田卓哉氏の行動です。
なぜ一人の編集者がここまで深く関与し、結果として加害者を守る側に回ったのか。
成田氏のこれまでの行動を時系列で並べると、その異常さが浮き彫りになります。
2018年に堕天作戦の担当に就任した際、前任者が「最終回で完結予定」としていたのを編集長に直談判して連載継続を勝ち取った話は有名です。
YouTubeの密着動画でも「多忙で週末返上」の熱血編集者として知られ、堕天作戦を「世界観の深掘りが凄い」と絶賛していました。
ここまでなら「作品愛の強い編集者」で済む話です。
問題はその先。
2021年5月の時点で、被害者・山本氏・成田氏の3者LINEグループを自ら作り、150万円の示談を提案していたとされる。
2022年に堕天作戦を終わらせた後、別名義での常人仮面立ち上げを橋渡し。
2025年には事件の裁判が進行中にもかかわらず、山本氏と悠長にランチに行って写真をアップ。
この一連の動きについて、ネット上ではいくつかの仮説が飛び交っています。
一番多いのは「売上と自分の評価を守りたかった」という見方。
WEB漫画総選挙3位の作品を担当していた実績は、編集者としてのキャリアに直結します。
その作者を失うわけにはいかない、だからトラブルは内々に処理して、別名義で復帰させた、と。
もう一つは「小学館の組織的判断だった」という説。
編集者個人が勝手にLINEグループで示談交渉をするのは、いくらなんでも権限を超えている。
上層部から「この件は穏便に」と指示が下りていた可能性を指摘する声もあります。
セクシー田中さん事件で問われた小学館の体質を思い出す人も多いようです。
いずれにせよ、結果として被害者、作画者、そして読者を裏切る形になったことは動かしようのない事実。
成田氏が出演予定だったBSテレ東『漫画クリスタル』が「番組制作上の都合」で延期になったことも、状況の深刻さを物語っています。
この件で最も根深いのは、「名前を変えればリセットできてしまう」という漫画業界の構造的な問題です。
漫画家はフリーランスの個人事業主。
ペンネームは自由に変えられるし、出版社に犯罪歴チェックの義務はありません。
編集者が「知っていて起用した」としても、法的な使用者責任を問うのは難しいとされています。
山本氏のケースは、まさにこの仕組みの穴を突いた形でしょう。
堕天作戦を終えて、一路一という名前で常人仮面の原作を始める。
同じ編集者が橋渡しし、同じプラットフォームで連載。
発覚しなければ、何事もなかったかのように活動を続けられた。
海外のMarvelやDCでは、性加害歴が判明した時点で即契約解除・作品抹消が標準的な対応になっています。
日本の漫画業界にそこまでの仕組みがないのは、「作家の表現の自由」や「フリーランスの自主性」を尊重する文化があるからとも言われますが、それが悪用されるケースにどう対処するかという議論は、ほとんど進んでいないのが実情です。
Xでは「ペンネーム変えればリセットできる業界って異常」「次はどんな名前で復活するんだ」という声が止みません。
山本氏に対する1100万円の賠償命令は民事判決であり、刑事事件としての逮捕はなく前科もつかない。
極端に言えば、お金を払って新しいペンネームを用意すれば、また漫画業界に戻れる道が残されているのです。
被害者は一生向き合い続けなければならないPTSDを抱えているのに、加害者には「やり直し」が用意されている。
この非対称さに対する怒りが、今回の炎上の根底にあるように感じます。
最後に、今後の展開で注目すべきポイントをまとめておきます。
まず、山本氏が控訴するかどうか。
判決から控訴期限はおよそ2週間なので、3月上旬には動きがあるかもしれません。
控訴すれば裁判は継続し、改めて同一人物かどうかが公の場で議論される可能性もあります。
次に、小学館の公式コメント。
2月27日時点でまだ一切の声明が出ていません。
このまま黙り続けるのか、何らかの説明を出すのか。
読者としては、少なくとも作画者・鶴吉繪理氏への対応について説明を求めたいところです。
そして紙版の動向。
重版がかかるのか、それとも自主回収に向かうのか。
いずれにしても、この作品を取り巻く状況はしばらく落ち着きそうにありません。
正直なところ、この問題に「正解」はないのかもしれません。
同一人物説を信じるかどうかも、単行本をどうするかも、最終的にはそれぞれの判断に委ねられます。
ただ一つ確かなのは、15歳の少女に対して行われた行為は、どんな理由があっても絶対に許されないということ。
そして、その事実を知った上で沈黙を選ぶことは、結果として加害者を守ることに繋がりかねないということです。
被害に遭われた女性の回復を心から祈るとともに、何の落ち度もなく巻き込まれた作画者・鶴吉繪理氏の今後が守られることを願っています。
この事件がきっかけとなって、ペンネームの裏に隠された闇が二度と繰り返されない仕組みが生まれることを、切に期待したいと思います。
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