令和の東京で、ガソリンを撒いて住宅に火をつけようとした会社員がいた、という話を聞いて、最初は「さすがにフィクションでしょ」と思った人も多いのではないでしょうか。
ところがこれ、2025年の秋に実際に起きた事件で、しかも犯行を指示したのは年収1000万円の求人を打ち出していた”優良不動産会社”の社員だったのです。
会社の名は、株式会社D・R・M。
総資産178億円、純利益約4億円という、ちょっとした上場企業並みの財務力を持つ会社の社員が、なぜガソリンを手配することになったのか。
正直、この数字と事件の組み合わせには驚かされました。
事件の犯人像、現場となった武蔵小山の地理的背景、そして今後の会社の末路まで、わかっている範囲でじっくり整理していきましょう。
目次
この事件で逮捕されたのは、D・R・M社の社員である内藤容疑者(31歳・東京都港区赤坂在住)と、実行役の男性5人の合計6人。
まずは、この事件の「役割分担」を頭に入れておいてほしいのです。
内藤容疑者は「指示役」の立場で、実際にガソリンを持って現場に行ったわけではありません。
報道によれば、立ち退きを拒否する品川区内の60代の男性住民を脅すことを目的に、知人関係を通じて実行役5人を手配し、約100万円の報酬を約束した疑いが持たれています。
指示役と実行役の関係がヤクザ的な組織ではなく、あくまで「個人の知人ネットワーク」によるものという点が、いわゆる現代の闇バイト構造と重なって見えます。
実行役として名前が一部報道で明らかになっているのは、直井容疑者(29歳・足立区在住、職業不詳)や山上容疑者(28歳・さいたま市北区在住、職業不詳)ら。
残り3人については現時点で氏名が公表されておらず、いずれも26〜30歳の男性とされています。
逮捕後、容疑者らは「おおむね容疑を認めている」と報じられており、犯行の事実そのものについては大きな争いはなさそうです。
2026年2月20日の逮捕発表後、警視庁は実行役の知人関係をさらに追及中とされており、捜査はまだ続いている段階です。
内藤容疑者については、朝日新聞・毎日新聞・TBS NEWS DIG・FNNプライムオンラインなど、複数の大手メディアが実名で報道しています。
Yahoo!ニュースやTBS NEWS DIGには、警視庁荏原署に入る内藤容疑者の逮捕時の様子を映した画像も掲載されており、黒いジャケット姿でカメラの前を通り過ぎる場面が確認されています。
SNSについては、X(旧Twitter)で事件関連のポストが多数出てきますが、本人と特定できるアカウントは見当たらないのが現状です。
FacebookやInstagramでも同様で、本人のものと思われるアカウントは特定されていません。
ネット上では匿名掲示板で過去の勤務歴や人間関係について様々な憶測が飛び交っていますが、信ぴょう性は低く、事実確認が取れていない情報がほとんどです。
内藤容疑者がどんな人物なのか、正直なところ、公式情報はまだ限られています。
ただ、報道では「未経験から入社した営業担当者」とされており、D・R・Mの求人広告(年収392万円〜1000万円、OJT中心)を見て応募したようなタイプの社員と推測されています。
どこにでもいそうな若い会社員が、なぜここまで追い詰められたのか、という問いは、この事件の最も深いところに横たわっているのかもしれません。
「武蔵小山」という地名を聞いて、なんとなく「住みやすそう」というイメージを持つ人は多いでしょう。
東急目黒線・武蔵小山駅は目黒まで2駅という都心アクセスの良さを持ちながら、駅前には「パルム」という活気ある商店街が伸びており、子育て世帯に人気のエリアとして知られています。
ところがそのすぐ近く、路地を曲がった先の住宅密集地で、令和の時代には似つかわしくない事件が起きていたのです。
事件の舞台は、東京都品川区小山2丁目周辺。
武蔵小山駅から徒歩3〜5分の距離にある、木造住宅や古いアパートが密集するエリアです。
行政的には「モクミツ地域」(木造住宅密集地域)と呼ばれる場所で、防災上の課題を抱えながらも、高い利便性から地価が上昇し続けてきたエリアでもあります。
再開発の波が押し寄せているこの場所が、なぜ地上げのターゲットになったのか、順を追って見ていきましょう。
最初の事件が起きたのは、2025年10月31日の午前5時10分頃のことです。
品川区小山2丁目に住む60代の男性の自宅、その外壁にガソリンが撒かれ、火がつけられました。
幸いにも火はすぐに消し止められ、ポストの一部が焼損するにとどまりました。
この男性は、D・R・Mが進めていた地上げの対象者で、立ち退きを強く拒否し続けていた人物です。
武蔵小山駅から北東に約200メートルほどの路地に位置する木造住宅で、細い路地に面した古い下町の佇まいの家だったと報じられています。
この土地の価値を少し考えてみると、周辺の公示地価は1平方メートルあたり80万円超(前年比11%上昇)と高騰しており、仮にその土地が再開発計画の「最後のピース」になっていた場合、その1区画を押さえられるかどうかがプロジェクト全体の損益を左右しかねません。
そう考えると、開発側がいかに追い詰められていたかが、なんとなく見えてくるのではないでしょうか。
住民の証言では、「たばこのポイ捨てかと思ったが、連続した不審火で恐怖を感じた」との声があり、日常の中に突然差し込まれた恐怖の実態が伝わってきます。
続いて2025年11月18日の午前1時10分頃、放火未遂があった住宅のすぐ隣に位置する無人の空きアパートにガソリンが撒かれ、放火されました。
壁や内部が焼損し、近隣住民が煙によって避難を強いられる事態に。
人的被害はなかったものの、一歩間違えれば大惨事になっていた状況です。
このアパートが狙われた理由は、おそらく「直接の標的には手を出しにくいから、隣を燃やして恐怖を煽る」という発想だったのでしょう。
本命の一軒家の住人に立ち退きを決意させるために、すぐ隣の建物を燃やす。
戦略的な脅し、という言葉が浮かびますが、その論理の冷酷さが余計に背筋を凍らせます。
空きアパートは老朽化しており、無人だったために「燃やしても被害が少ない」と判断されたのかもしれません。
近隣住民は「煙で前が見えず、大惨事になりかねなかった」と証言しており、計算外の恐怖が周辺に広がったことが伝わってきます。
現場は事件後に清掃されていますが、更地化が進む可能性も指摘されています。
武蔵小山の再開発は、現在も着々と進んでいます。
駅前の整備に続き、小山三丁目エリアでは複数の大規模マンション計画が浮上しており、都心アクセスと生活利便性を背景に、地価は過去10年でおよそ2倍に跳ね上がりました。
さらにリニア中央新幹線の開業による波及効果まで期待されており、投資家や開発業者にとって「今が買い時」という意識が働きやすい状況です。
この文脈で事件を整理すると、こんな構図が浮かび上がってきます。
駅前再開発の進行→地価の急上昇→周辺密集地の買収圧力の高まり→D・R・Mへの地上げ委託→立ち退き拒否者の発生→脅迫・放火へのエスカレート。
開発業者とD・R・M社の間でどのような契約があったのか、どこまでの行為が「委託内容」として想定されていたのか、現時点では不明な部分が多くあります。
事件後、地元住民の間では再開発への不安や反対の声が高まっており、行政側も監視強化を検討しているとされています。
この事件が「一個人の暴走」だけで説明できるのかどうか、捜査の行方が気になるところです。
事件が報じられた後、D・R・M社の公式サイトは一時アクセス集中でダウンしたものの、2026年2月21日現在は通常稼働を続けています。
サイトには依然として住谷代表のメッセージが掲載されており、「街や人々が幸せになるためには、どうしたら最適なのかを創造し、そして再生すること」という言葉が並んでいます。
その言葉と、ガソリンの入ったタンクを持った実行役の姿を、頭の中で並べると、何とも言えない気分になるのは私だけではないでしょう。
D・R・M社の企業理念の核心は「3つの福」、すなわち「惜福(資源を大切にする)」「分福(幸せを分かち合う)」「植福(未来に幸せの種を植える)」です。
特に「分福」については、今回の事件を知ったネットユーザーから「実行役への報酬を分け合うことか」と皮肉が集中し、X上では数百件以上のポストが飛び交いました。
「幸せを植えるはずが、炎を植えた」という言葉が端的に表しているように、企業理念と実際の行為の乖離がここまで極端な例は、なかなか見当たりません。
ステークホルダー資本主義やCSRといった言葉が広まった時代に、理念が「看板」に過ぎない企業がまだ存在するという厳しい現実を突きつけられた気がします。
D・R・M社の主要取引先には三井不動産や三菱地所といった大手デベロッパーが名を連ねており、業界内での信用力は決して低くなかったはずです。
ところが事件発覚後、こうした取引先各社はコメントを控えており、業界団体が倫理研修の呼びかけを始めるなど、業界全体への波紋が広がっています。
業界内の評判は「令和のヤクザ」と言われるほど急落しており、財務的な優良さと信用は、まったく別物だということが改めて証明された格好です。
今後の法的な処分については、宅地建物取引業法に基づく東京都知事からの営業停止処分や免許取消しの可能性が高いと見られています。
類似事例として、アパマンショップの爆発事件では業務停止処分が下されており、今回の放火事件が組織的な関与を持つと判断された場合、さらに重い処分になることも考えられます。
2026年2月20日には警視庁が港区の本社に約10人態勢で家宅捜索を実施し、社内資料を押収しています。
内藤容疑者個人の行為にとどまるのか、それとも組織的な指示があったのか、という点が今後の捜査の焦点になるでしょう。
会社が「知らなかった」と言い切れるかどうか、これは非常に重要なポイントです。
この事件を語るうえで外せないのが、D・R・Mの採用と教育の構造です。
同社はマイナビ転職で「法人不動産営業・未経験歓迎、年収392万〜1000万円」という求人を出しており、OJT中心の実務教育で育てるという方針を掲げていました。
未経験の若者が「年収1000万円を目指せる仕事」に応募し、入社後は先輩社員の下でOJTを積んでいく。
ここまでは、どこにでもある話です。
ところがその「先輩から学ぶOJT」の中身が、地上げ交渉の実務だったとしたら、話はまったく変わってきます。
「立ち退きをまとめてこい」「数字を出せ」「どんな手を使っても」という空気が充満した職場環境で、若い社員が少しずつ正常な判断の範囲から外れていく。
犯罪はある日突然生まれるのではなく、日常のプレッシャーの積み重ねの末に起きるのかもしれません。
内藤容疑者がどのような状況に追い込まれていたのか、現時点では公式情報が限られており、断言はできません。
ただ、総資産178億円という財務的な余裕がある会社が、なぜこのような手段を選んだのかという問いへの答えは、「カネがなかったから」ではなさそうです。
むしろ、成果に対する過度なプレッシャーと、倫理を問い直す機会のないまま続いた実務教育の果てに生まれた出来事と見るほうが、実態に近いのではないかと思います。
2026年2月21日現在、会社からの公式謝罪は出ておらず、求人も停止。
社員の離職が相次いでいるという噂も流れており、内部がどのような状態になっているのか、外からは見えにくい状況が続いています。
武蔵小山のあの路地で起きたことは、単なる不動産トラブルではなく、成果主義と倫理の欠如が生み出した必然だったのかもしれません。
そして同じ構造を持つ会社が、今もどこかに存在しているのだとしたら、それはもうひとごとではない話です。
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