動画公開から絶縁宣言までの流れ
個人運営のアダルト系ミュージアム「八潮秘宝館」と、人気VTuber月ノ美兎(つきのみと)さんのあいだに、軋轢(あつれき)を生む出来事がありました。
発端は、月ノさんがYouTubeで公開した旅行記動画「秘宝館→秘宝館→ネモフィラのお花畑→秘宝館」。
この動画には、八潮秘宝館の施設内部、館長との会話、さらには一般の来場者の声も含まれていました。
月ノさん側は「来場者の声はその場で同意を得て収録した」と説明しています。
動画の公開は6月17日。
しかし、その前段階として6月13日〜14日にかけて、月ノさんのマネージャーが館長へ連絡を取り、撮影映像の使用について許可を得ていました。
つまり、動画公開は事後許可を得たうえで行われたかたちになります。
ところがその3日後、6月19日に事態は急変します。
館長の兵頭喜貴(ひょうどうよしたか)さんが、自身のブログで強い怒りを表明し、「にじさんじとは絶縁する」と断言しました。
その理由として挙げられたのは、以下の3点です。
- 取材目的の来館であるにもかかわらず、事前に申告がなかった
- 録音が無断で行われたと感じた
- 館長のブログに対して、にじさんじ運営(ANYCOLOR社)のマネージャーが「上から目線」で個人情報削除を要求してきた
実は、6月18日時点では館長はブログで月ノさんを「感じがよかった」「頭の良い人」と好意的に評価しており、動画公開そのものに否定的な様子はありませんでした。
しかしその翌日、ANYCOLORからのメールがきっかけで感情が爆発。
過去にもメディアとのトラブル経験がある館長にとって、「事後的に送られてきた削除要請メール」が、「不躾(ぶしつけ)な指図」に映ったのかもしれません。
そして6月20日、月ノ美兎さんがX(旧Twitter)で公式に経緯を説明し、謝罪文を投稿。
- 撮影については、館長の「動画にしてもいい」「なんでも撮っていいよ」という言葉を許可と受け取ったが、説明不足だった
- 録音は館長の「カメラを回すべき」という言葉を受けて開始し、隠し録音ではない
- マネージャーの対応が館長に不快感を与えたことについては反省し、配慮が足りなかった
こういった趣旨を静かに語りつつ、問題となった動画は非公開とし、該当部分をカットして再公開する意向を示しました。
この対応に対して、「誠実な謝罪だった」と評価する声がある一方で、「自分に非はないという印象を与えた」として批判的な反応も少なくありませんでした。
この騒動、どこがどうズレてしまったのでしょうか?
時系列と経緯
- 2025年5月26日以前:初回訪問
月ノ美兎さん(または中の人)が八潮秘宝館に予約なしで訪問。館長は不在で、「予約制なので予約して再訪してください」と案内され、大きな問題はなし。
- 2025年5月26日:再訪問
月ノ美兎さんが本名で予約し、八潮秘宝館に来館。館長は事前に名前を検索し、VTuberであることを認識。来館時に「YouTuberなら撮影するんじゃない?」と発言し、月ノさんはこれを撮影許可と受け取り動画を撮影。館長は取材目的であることを当日知り、「事前申請がなかった」と後に問題視。
- 2025年6月13日~14日:事後連絡
訪問後、月ノさんのマネージャー(ANYCOLOR社)が館長に動画使用の許可確認を連絡。6月14日に館長から許可の返信を得る。
- 2025年6月17日:動画公開
月ノ美兎さんがYouTubeで動画を公開。八潮秘宝館の館長や一般来場者のインタビューが含まれ、概要欄に「撮影許可いただきました」と記載。
- 2025年6月18日:館長の初期反応
館長がブログで月ノさんを「頭が良い」「感じがいい」と称賛し、好意的な印象を述べる。
- 2025年6月19日:マネージャーの対応と関係悪化
館長のブログに月ノさんの個人情報につながる可能性のある記述があったため、ANYCOLORが削除を依頼。この連絡が「上から目線」「不躾」と館長に受け取られ、関係が悪化。
- 2025年6月20日:館長の絶縁宣言と月ノさんの謝罪
館長がブログで「無断取材」「隠し録音」「マネージャーの胸クソ悪いメール」を理由に、にじさんじとの絶縁を宣言。
月ノ美兎さんがXで声明を発表。以下のように説明し謝罪。
- 無断取材:訪問は趣味目的で、館長の「動画にしてもいい」「なんでも撮影してよい」発言を許可と解釈したが、事前説明不足を反省。
- 無断録音:館長の「カメラを回すべき」発言後に録音開始し、隠し録音はしていない。来場者の音声もその場で同意を得たと主張。
- マネージャーの対応:個人情報に関する削除依頼が原因で館長に不快感を与えた可能性を認め、配慮不足を謝罪。
月ノさんは動画を非公開化し、八潮秘宝館部分を削除後、再公開予定。
撮影許可の食い違い…どこでズレたのか?
この騒動の核心は、月ノ美兎さんが「撮影していい」と思っていた一方で、館長は「無断取材」と受け取ったこと。
つまり、許可の“有無”そのものではなく、「お互いの認識」が食い違っていた点にあります。
まず、訪問の流れを確認しましょう。
月ノさんは、2025年5月26日に八潮秘宝館を予約して訪れましたが、その前に一度、予約なしで訪れ、館長不在のため「予約制なので再度予約してほしい」と案内されたと、自らXで明かしています。
そして、再訪の際には月ノさんの本名で予約がされており、館長はその名前を事前にネットで検索し、VTuber活動に関連する情報を見つけた可能性があります。
そのうえで来館当日、館長は「YouTuberなら撮影するんじゃない?」と声をかけました。
この発言を、月ノさんは「撮影の許可が出た」と素直に受け取ったのです。
実際、動画には館長が展示物について案内し、笑顔で受け答えする様子も映っており、外見上は「撮影を歓迎していた」と見える内容でした。
しかし館長は、「取材目的を事前に知らせてほしかった」とブログで繰り返し主張しており、この発言は“許可”のつもりではなかった可能性があります。
つまり、
館長:「事前に言ってくれれば対応できたのに」
月ノさん:「その場で言われたからOKだと思った」
──この認識のズレが、大きな問題を生んだのです。
たとえるなら、「お祭りの屋台で『どうぞ』と言われて試食したら、実は買うつもりがある人にしか勧めてなかった」ような、微妙なコミュニケーションのすれ違いです。
さらに、月ノさんはこの訪問を「趣味の旅行」と位置づけており、撮影もその延長線上と認識していました。
そのため、マネージャーは同行しておらず、月ノさんは1人で訪問したと見られます。
一方で、館長の視点では「本名で来た有名人が、動画を撮って公開しようとしている」という状況。
そして、実際に動画が編集された後、6月13日から14日にかけて、月ノさんのマネージャーから館長へ「撮影の許可確認」のメールが送られ、14日に許可の返信があったとされています。
この一連の流れを、館長が「順序が逆だ」「後から取り繕ったように見える」と受け取ってしまったのかもしれません。
加えて、動画には館長との会話だけでなく、一般来場者の声も収録されていました。
これについて館長は、「隠し録音ではないか」と疑念を示し、特に「音質が悪かったことが逆に怪しい」とも述べています。
対して、月ノさんは「録音は館長の『カメラを回すべき』という言葉を受けて開始した」「来場者の声もその場で同意を得た」と説明しています。
このように、
館長は“意図的に隠れて録った”と感じ、
月ノさんは“その場で了解を取った”と信じていた。
言葉にされなかった「前提」がズレていたのです。
そして、事態はさらに別の“火種”によって一気に燃え広がります。
館長の怒りを爆発させたメールの正体
動画公開(6月17日)から2日後の6月19日、館長の怒りがブログで爆発しました。
このときのきっかけとなったのが、「月ノ美兎さんのマネージャーから届いたメール」だったとされています。
館長は6月19日のブログで、そのメールに対する強い不満を初めて表明。
そして翌6月20日には、「無断取材」「隠し録音」「胸クソ悪いメール」を理由に、にじさんじとの絶縁を公式に宣言しました。
このメールには何が書かれていたのか?
月ノさんのXでの説明(6月20日)によれば、マネージャーは「館長のブログに月ノさんの個人情報につながる記述があったため、削除を依頼した」とのこと。
VTuber業界では、「中の人」の個人情報を守ることが絶対のルール。
ファンも含めて、“身バレ(本名や顔などの特定)”を避けるのが当たり前の文化です。
したがって、事務所側が「個人情報につながる部分は削除してほしい」と依頼すること自体は、業界的には常識的な行動とも言えます。
しかし、個人で施設を運営している館長にとっては、受け取り方が違いました。
過去にメディアとのトラブルを経験していたとされ、元々「外部からの干渉」に敏感な背景があったと考えられます。
しかも今回は、すでに
- 「取材の申請がなかった」
- 「隠し録音された」と館長が主張する不信感
こうした不満が積もっていた状態でした。
そのうえで、「上から目線」「命令のように感じた」と受け取られたメールが届いた。
たとえば、もしもこんな風に届いたらどうでしょう。
「〇〇の記述は本人の個人情報にあたるため、すぐに削除をお願いします」
相手の立場によっては、これは「指図」に感じられるかもしれません。
言われた側が「後出しだ」と感じたら、それだけで信頼関係は崩れてしまいます。
6月18日には、館長は月ノさんを「感じのいい方だった」「頭がいい人」とブログで高く評価していました。
しかし、6月19日のメール対応後に不満を表明し、翌20日には「縁を切る」とまで言い切るブログ記事を投稿。
たった数日のあいだで、評価が真逆に転じたのです。
事務所としては「身元保護のための常識的な要請」だったものが、館長には「横柄な命令」に映ったのでしょうか。
そして、この対立は、ネット上で思わぬ形で火がつくことになります。
ファンの暴走が拍車をかけた?
館長が6月20日に絶縁を宣言すると、騒動はネット上でさらに拡散しました。
注目されはじめたのは、前日の6月19日──館長がマネージャーからのメールに不満を表明したブログ記事が投稿された頃。
それを受けてSNSでは、「どっちが悪い?」という議論が広がり、感情的な意見が飛び交い始めていました。
そして6月20日以降、複数のユーザーが八潮秘宝館のGoogleマップに、低評価の星と批判的なコメントを投稿。
これが、いわゆる“口コミ爆撃”です。
その内容は、
- 「感じのいいお客に対して失礼すぎる」
- 「動画を作ってもらったのに恩を仇で返した」
- 「やっぱり秘宝館ってヤバい人がやってるのかも」
といった、感情に訴えるものが多く、なかには施設を訪れた形跡のない投稿も散見されました。
こうした行為に対して、騒動に関係ない利用者やネット上の声が「これは営業妨害ではないか」と反発し始めたのです。
本来なら“問題の核心”に関係ない第三者までが、評価システムを使って意思表示をし始める──
それが“ネット炎上”の典型的なパターンです。
これを受けて、6月20日、月ノ美兎さん本人がXで「迷惑行為はやめてください」とファンに呼びかけました。
「ご迷惑をおかけしたにもかかわらず、相手方への攻撃や低評価の書き込みが発生しており、大変心苦しく思っております。どうか、これ以上の迷惑行為はやめてください」
とても冷静で穏やかな口調でしたが、これは明確な“制止”のメッセージでした。
しかし、この呼びかけにもかかわらず、低評価行為は一部で続き、完全な沈静化には至りませんでした。
では、なぜこうした過激な動きが起きてしまったのか?
VTuberという存在の“近さ”も一因です。
VTuberは、ファンにとって“手の届く存在”です。
- 配信でコメントを拾ってくれる
- 日常の小さな話題も共有してくれる
- まるで、ネットの向こうにいる“友達”のような存在
だからこそ、本人が怒っていなくても、ファンが先回りして守ろうとする。
まるで「親友をバカにされた」と、ファンが過剰に擁護しようとするようなものです。
その感情が“善意”であることに疑いはありません。
けれど、その行動が、結果として本人や関係者をさらに追い詰める──そんな現実も、私たちは知っておくべきです。